職場改善

職場環境の改善が生産性に与える効果

From:堀口寿人 金沢の事務所より

今回は、職場環境を改善することが、どれだけ組織の生産性に影響を与えるかをお話ししたい。

もちろん、単に理屈を述べても、あなはた納得しないだろうし、むしろうんざりするだろう。

なので、ここでは実際の研究をもとに、職場環境改善がどれくらい効果があるか、根拠ある証拠を示そうと思う。

そのために、2013年に発表された「日本における職場でのメンタルヘルスの第一次予防対策に関する費用便益分析(吉村ら,2013)」をもとに話を進める。

1.研究の概要

この研究では、職場環境改善は、各職場でファシリテーター(進行役)を育て、ファシリテーター主導によって必要な職場環境改善を行うことを想定している。

毎回、専門家が入ってコンサルするような形ではないので注意して欲しい。

1-1.参加者

まず、この研究は、日本国内の製造工場を対象に行われた。研究に参加したのは11職場で合計97名の従業員だった。この11職場を次のように2つに分けた。

  • ありグループ:職場環境改善をする:6職場(47名)
  • なしグループ:職場環境改善をしない:5職場(50名)

ありグループの6職場から、各1人ずつファシリテーターを選び、ファシリテーターの教育を行った。

1-2.研究の流れ

研究は次のような流れで実施された。

  • 2005 年5月:ありグループの各職場からファシリテーターを選抜し教育を実施
  • 2005 年7月:両グループで職場環境改善前の効果測定
  • 2005 年10月:ありグループの管理職(各1名ずつ)に職場環境改善の意義を説明
  • 2005 年11月:ありグループの参加者に対し、職場環境改善のワークショップを実施
  • 2006年8月:両グループで事後の効果測定

ちなみに、ファシリテーターは一般従業員の中から選抜している。管理職とファシリテーターは違う人物なので要注意。

主要なイベントは次の3つある。それらは最初のHPQ測定(2005 年7月)から6ヶ月以内にすべて終了していることにも注意して欲しい。

  • 専門家によるファシリテーター教育
  • 専門家による 管理職への説明・教育
  • ファシリテーターによる職場環境改善ワークショップ

1-3.効果測定方法

効果は、投資した金額に対して、いくらの金銭的なリターンがあったかで示される。

そのための指標として、WHO(世界保健機関)が出しているHPQ(the WHO Health and Work Performance Questionnaire:健康と労働パフォーマンスに関する質問紙)を使った。

これは、自分の生産性を10段階で評価するものだ。自分で評価すると評価があいまいになると思われるかもしれない。ただ、同じHPQを使って上司に評価してもらった場合も、自分で評価した場合とだいたい同じ結果になることが分かっている。

このHPQを使って、職場環境改善の前後でHPQの変化量を調べるわけだ。

2.HPQの変化

この研究では、2005 年7月の時点で一回目のHPQ測定を実施して、すぐに職場環境改善に取りかかっている。次に、HPQ測定するのが1年後の2006年8月だ。その変化が次の通り。

2-1.ありグループ

HPQの平均値は次の通りだった。職場環境改善をした後で得点が増えているのが分かる。要するに、ありグループの仕事のパフォーマンスは高まったわけだ。

  • 職場環境改善をする前:65.1
  • 職場環境改善をした後:67.3

2-2.なしグループ

HPQの平均値は次の通りだった。職場環境改善をした後で得点が減っているのが分かる。要するに、なしグループの仕事のパフォーマンスは低くなったわけだ。

  • 職場環境改善をする前:66.9
  • 職場環境改善をした後:63.8

3.費用の算出

3-1.ファシリテーター教育

 算出根拠費用総額
ファシリテーター賃金4時間×2000円×6名48,000円
講師謝金4時間7万円70,000円

ファシリテーター教育は、2005 年5月の時点で、職場環境改善を行っているありグループのみで行っている。その際に、講師が教育しているため、このような内訳になる。

3-2.管理職説明・教育

 算出根拠費用総額
管理職賃金1時間×4000円×6名24,000円
講師謝金1時間3万円30,000円

ファシリテーター教育は、2005 年10月の時点で、職場環境改善を行っているありグループのみで行っている。その際に、講師が教育しているため、このような内訳になる。

3-3.環境改善ワークショップ

 算出根拠費用総額
従業員賃金2時間×2000円×47名188,000円

環境改善ワークショップは、2005 年11月の時点で、ありグループの全員に対して行っている。これはファシリテーター主導で行われていて、講師は参加していない。そのため、従業員賃金だけとなる。

つまり、合計すると、360,000円が、この職場環境改善を行うために必要な費用となる。

4.ROIの算出法

4-1.ROIの算出法

ROIは、まず、職場環境改善によってHPQの値がどう変化したのかを出す。そして、それに、介入人数と年間賞与額をかけることで算出している。つまり、計算式にするとこうなる。

ROI=HPQの変化量×ありグループの人数×従業員一人当たりの年間賞与額

ちなみに年間賞与額をROIの計算に採用したのは、従業員の月給は企業の生産性を必ずしも繁栄していないからという理由から。年間賞与額の方がより企業の生産性を反映していると思われるということからのようだ。

本来は、 「従業員一人当たりの年間賞与額」ではなく、「従業員一人当たりが上げた年間利益」を割り当てるべきだろう。ただ、そんな数字は割り出せないし、「従業員一人当たりの年間賞与額」は 「従業員一人当たりが上げた年間利益」と関連があるとも言えるだろう。

そこで、ここでは「従業員一人当たりの年間賞与額」をROIの計算式に用いることで納得したい。

4-2.効果の想定

まずROIの算出にあたって、職場環境改善の効果がいつどのように現れたかを知る必要がある。

ただし、この研究では、HPQ測定を2005 年7月に1回目、約1年後の2006年8月に2回目と2回しか測定していない。なので、その間HPQの値がどう変化していたのかは分からない。

例えば、ありグループでは、測定1回目から2回目にかけてHPQの値は、65.1→67.3になっている。これは、

  • 12カ月かけて少しずつジリジリと変化していったのか?
  • 6ヶ月の時点で、すでにこれくらいの変化がみられていたのか?

それは分からない。そこで、この研究ではHPQの変化を、この2パターンで考えている。当然、パターン1とパターン2ではROIの数値は変わってくる。

5.ROI

5-1.パターン1のROI

以上から、パターン1(HPQが12ヶ月かけて少しずつ増えていくと想定)の場合のROIは次のように算出された。

便益総額714,400円
1人当たりの便益15,200円
1人当たりの純便益7,540円
ROI1.98

使っている費用が360,000円なので、ROIは1.98となっている。投資額の約2倍のリターンということになる。

5-2.パターン2のROI

以上から、パターン2(HPQが6ヶ月の時点で12ヶ月目の水準に達していると想定)の場合のROIは次のように算出された。

便益総額1,071,600円
1人当たりの便益22,800円
1人当たりの純便益15,410円
ROI2.98

使っている費用が360,000円なので、ROIは2.98となっている。投資額の約3倍のリターンということになる。

5-3. 実際のROI

前にお話ししたように、本来ROIには「従業員一人当たりの年間賞与額」ではなく「従業員一人当たりが上げた年間利益」を用いるべきだと私は思う。

ただ、その数字を出すのが不可能なため、おそらく今回は 「従業員一人当たりの年間賞与額」 を用いているのだろうと思う。

もう少し突き詰めると、 利益の中から賞与が支払われるはずなので、「従業員一人当たりの年間賞与額」<「従業員一人当たりが上げた年間利益」となるはずだ。

そう考えると、実際のROIはもう少し大きな数字になると思われる。

6.まとめ

この研究では、職場に、職場環境改善のファシリテーターを設置して、職場環境の改善を行った。実際にやったことと言えば、次の通り。

  • 専門家によるファシリテーターの育成
  • 専門家による管理職への指導
  • ファシリテーターによる環境改善ワークショップの実施

日常の業務の中で、ファシリテーター主導のもと、ちょこちょこ職場環境改善がなされていたことが想定されるが、大がかりなできごとはこの3つだけだった。そして、このようなやり方でも、2倍から3倍のリターンが見込めるという結果になった。

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