組織改善

労働生産性の真実。労働生産性を下げていたのはこれだった!

From:堀口寿人 金沢のオフィスより

あなたがこの記事を読んでいるということは、おそらく自分の組織の労働生産性を高めたいと思っていることだろう。そのためには、「労働生産性と関係の深い要因は何か?」を理解する必要がある。

でも、あなたが理解しているように、労働生産性にはおそらくかなりたくさんの要因が関係している。それだけに、人の目には何がどう関係しているのかはハッキリとは分からない。

「どうしたものか・・」と思っていたところに希望の光。実は、労働生産性がどんな要因に関係しているのかを分析した研究が存在する。そんなわけで、今回は、その研究をもとに、答えをひも解いていく。

この記事を読めば、労働生産性を下げる最大の要因が何かわかるだろう。それを踏まえて何をすべきかも分かるようになるはずだ。

1.労働生産性に関する研究

まず今回参考にする研究は、「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因(古井ら,2018)」だ。

もしあなたが「結果だけを教えてくれ!」と言う場合は、「2.労働生産性を下げる要因とは?」から読んで欲しい。

1-1.研究の概要

この研究は、従業員の健康要因が労働生産性にどう関係しているかを調査したものだ。そのために、健康リスクに関する各項目と、労働生産性に関する各項目をアンケート調査して、それらがどれくらい関係性があるのかを分析している。

1-2.調査対象者

この研究では、横浜市のある6事業所を対象にしている。調査対象の事業所の従業員は合計で178名、1事業所あたり平均26.7名だった。

彼らにアンケートをとったり、彼らのストレスチェックの結果を参照するなどして、彼らに関するデータを集めた。

1-3.健康リスクの評価

健康リスクの内容は次の9項目だった。これらを「健康リスク評価項目」としている。

これらについて、対象者にアンケートを取って、対象者がどんな健康リスクをどれくらい持っているかを明らかにした。

  • 主観的健康観
  • 仕事満足度
  • 家庭満足度
  • ストレス
  • 喫煙習慣
  • 飲酒習慣
  • 運動習慣
  • 睡眠習慣
  • 不定愁訴

1-4.労働生産性の評価

労働生産性の評価は、次の2つの概念から測定された。

1-4-1.アブセンティーズム

これは、従業員が、心身の不調で仕事を休んでしまうことによって、企業が本来得られるはずの労働生産性を得られないことを意味する。

例えば、従業員一人が一日働けば企業に30000円の利益があるとしよう。でも、その従業員が出社しなければ、当然得られるはずの30000円は0になる。そうやって損なわれる労働生産性がアブセンティーズムだ。

アブセンティーズムの測定に関しては次のようなアンケートを取り評価した。

「昨年1年間に、自分の病気やケガなどの体調不良で何日仕事を休みましたか?(0~365日)」

1-4-2.プレゼンティーズム

これは、仕事には来ているが、心身の不調で、企業が本来得られるべきはずの労働生産性が得られていない状態のことだ。要するに、従業員が自分の給料分働けていない状態だ。

例えば、日給20000円の人が12000円分しか働けていない状況をイメージして欲しい。この場合、20000-12000=8000円のプレゼンティーズム損失という言い方になる。 

プレゼンティーズムの測定に関しては、次のようなアンケートを取り評価した。

「病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価して下さい(1~100%)」

この時、例えば、65%と評価とした人がいたとしたら、プレゼンティーズム損失は100-65=35%とということになる。

もしこの人の日給が20000円だとしたら、20000×65%=14000円分しか働けていないことになる。残り7000円を企業は無駄に支払っていることになるわけだ。

1-5.職場のポジティブ面の評価

さらに、ポジティブ面の評価として、次の2つも調べた。これらはアンケートを取るのではなくストレスチェックの結果を利用した。

1-5-1.ワーク・エンゲージメント

これは、仕事にどれくらい熱意をもって取り組めているかを示す度合いだ。得点が高い方が、仕事に熱意をもって取り組めていることを示す。

1-5-2.職場の一体感

これは、どれくらい職場にまとまりがあるかを示す度合いだ。職場できちんと情報共有ができていたり、職場メンバーがお互いに認め合う関係性だと得点が高くなる。

1-6.分析方法

ここまでで、得点としてデータ化したものは大まかに次の3つになる。

  • 健康リスク
  • 労働生産性
  • 職場のポジティブ面

これらのデータを元に、次のことを分析する。

  • 健康リスクと労働生産性の関係性
  • 職場のポジティブ面と労働生産性の関係性

要するに、労働生産性と他の2つがどういう関係にあるかを分析したということだ。

2.労働生産性を下げる要因とは?

改めて確認だが、労働生産性は次の2つの指標で考えられる。

  • アブセンティーズム:仕事を休むことで失われる生産性損失
  • プレゼンティーズム:給料分働けていないことで失われる生産性損失

これを前提に、分析結果を見ていこう。

2-1.アブセンティーズム

アブセンティーズムと健康リスクの関係性は次の通り。ちなみに、関連度は0~1の範囲で数字が大きいほど関連度が高いことを示している。こうやって見ると、どの項目にもそれほど大きな関係性は見られない。

健康リスク関連度
主観的健康感.03
仕事満足度.04
家庭満足度.15
ストレス.06
喫煙習慣.15
飲酒習慣-.04
運動習慣.01
睡眠習慣.06
不定愁訴.17*

唯一、不定愁訴だけがアブセンティーズムといくらか関係しているようだ。不定愁訴は漠然とした体調不良のことなので、漠然とした体調不良を感じている人は仕事を休む傾向があるようだ。ただ、あくまで傾向なので、必ず休むわけではないが。

2-2.プレゼンティーズム

次に、プレゼンティーズムと健康リスクの関係は下のようになった。アブセンティーズムとは違って、プレゼンティーズムには関連する項目がいくつか見られる。

健康リスク関連度
主観的健康感.26**
仕事満足度.17*
家庭満足度.13
ストレス.23**
喫煙習慣.09
飲酒習慣-.05
運動習慣.02
睡眠習慣.28**
不定愁訴.22**

ちなみに*マークは関連度の確実性を示している。

  • *だと、95%の確率で関係がある
  • **だと、99%の確率で関係がある

という意味だ。言い換えると、*がついていないものは、「関係性があるかもしれないが、確実とは言えない」という感じになる。そうやって見ていくと、次の項目がプレゼンティーズムとほぼ確実に関係性があると言えそうだ。

  • 主観的健康感(99%の確率)
  • 仕事満足度(95%の確率)
  • ストレス(99%の確率)
  • 睡眠習慣(99%の確率)
  • 不定愁訴(99%の確率)

要するに、

  • 自分は健康じゃないという思いがある
  • 仕事に満足していない
  • ストレスを感じている
  • きちんと寝れていない
  • 漠然とした体調不良がある

などに当てはまる労働者は、労働生産性が落ちる傾向があるということだ。

3.健康リスク群と労働生産性

上では、健康リスクの各項目と労働生産性の関係性を見てきた。要するに項目同士の関連性を見てきたわけだ。

ここでは、健康リスクの高い人と低い人では、どれくらい労働生産性の損失に関係があるかを見ていく。

その前に前提として、参加者を次の3グループに分類している。

  • 低リスク:健康リスクが0~2
  • 中リスク:健康リスクが3~4
  • 高リスク:健康リスクが5~9

3-1.アブセンティーズム

アブセンティーズムと健康リスク群の関係性は次の通り。

 人数割合平均休日数平均コスト
低リスク54%1.92.4
中リスク34%2.12.2
高リスク12%7.112.3

それぞれのリスクグループで見てみよう。

3-1-1.低リスクグループ

このグループの人たちは健康リスクが0~2個の人たちだ。この人たちは全体の54%だから、半分以上の人が低リスクということになる。

低リスクの人たちでもたまには病気で仕事を休むことがある。その平均が1人あたり年間で1.9日というわけだ。その時に失われる労働生産性が年間で2.4万円ということだ。つまり、企業からすると本来得られるはずの2.4万円の利益が得られないことになる。

「たった2.4万円か」と思わないでほしい。というのも、もしあなたの企業が100人だったとするなら、低リスク者は54人いることになる。

その人たち一人一人に対して年間2.4万円のムダ金がかかっていると想像して欲しい。単純に54人×2.4万円=約130万円のムダ金が毎年発生しているわけだ。

3-1-2.中リスクグループ

このグループの人たちは健康リスクが3~4個の人たちだ。この人たちは全体の34%だから、全体の約1/3にあたる。

このグループの人たちが年間にとる休日数は2.1日で低リスクの人たちとあまり変わらない。

失われる年間の労働生産性も年間で2.2万円だ。「低リスクより少ないじゃないか?」と突っ込みを入れたくなるが、これは誤差の範囲と考えるべきだろう。

だから、考え方としては、低リスクの人と中リスクの人では、失われる労働生産性は同程度と見るべきだろう。企業目線からすると、低リスクの人にも中リスクの人にも、だいたい同額の費用を支払っているということだ。もちろんこの費用はムダ金だ。

あなたの企業が100人だったとするなら、中リスク者は34人いることになる。その人たち一人一人に対して年間2.2万円のムダ金がかかっているので、34人×2.2万円=約75万円のムダ金が毎年発生していることになる。

3-1-3.高リスクグループ

このグループの人たちは健康リスクが5~9個の人たちだ。この人たちは全体の12%で、人数としては一番少ない。

ただ、高リスクになると、とたんに失われる労働生産性はぐんと高くなる。まず、年間に一人当たり7.1日休む。その結果、企業がこの人たちに無駄に支払うお金は年間に12.3万円になる。

あなたの企業が100人だったとするなら、高リスク者は12人いることになる。その人たち一人一人に対して年間12.3万円のムダ金がかかっているので、12人×12.3万円=約148万円のムダ金が毎年発生していることになる。

つまり、あなたの企業が100人だったとして、アブセンティーズム費用だけで、約353万円の費用が年間かかっていることになる。一人当たり、年間35000の計算だ。

3-2.プレゼンティーズム

プレゼンティーズムと健康リスク群の関係性は次の通り。

 人数割合平均損失%平均コスト
低リスク54%12.456.4
中リスク34%18.366.8
高リスク12%30.8159.4

それぞれのリスクグループで見てみよう。当然だが、各グループの人数割合はアブセンティーズムのときと同じだ。

3-2-1.低リスクグループ

繰り返しになるが、このグループの人たちは健康リスクが0~2個の人たちだ。

この人たちは、一人当たり年間で平均で12.4%の労働生産性が失われる計算になった。

これはもし、このグループの人の日給が20000円なら、20000×12.4%=17520円分しか働いていないことを示している。つまり、企業からしたら残りの2480円をドブに捨てているということだ。

ちなみに、あなたの会社が100人だとしたら、低リスクグループの人たちにおいて54人×56.4万円=約3046万円のプレゼンティーズム損失が発生していることになる。

3-2-2.中リスクグループ

このグループの人たちは健康リスクが3~4個の人たちだ。この人たちは、一人当たり年間で平均で18.3%の労働生産性が失われる計算になった。

この人たちの日給が20000円だとすると、16340円分しか働いていないことになる。つまり企業からすれば残りの3660円をドブに捨てている計算だ。

あなたの会社が100人だとしたら、中リスクグループの人たちにおいて34人×66.8万円=約2271万円のプレゼンティーズム損失が発生していることになる。

3-2-3.高リスクグループ

このグループの人たちは健康リスクが5~9個の人たちだ。この人たちで失われる労働生産性は、一人当たり年間で平均で30.8%。アブセンティーズムの時と同じで、低リスク、中リスクと比べて明らかに高い。

この人たちの日給が20000円だとすると、13840円分しか働いていないことになる。つまり企業からすれば残りの6160円をドブに捨てている計算だ。

あなたの会社が100人だとしたら、高リスクグループの人たちにおいて12人×159.4万円=約1913万円のプレゼンティーズム損失が発生していることになる。

以上の全てのリスクグループのプレゼンティーズム損失を合算すると、約7230万円になる。つまり、あなたの会社が100人規模だとしたら、毎年プレゼンティーズム損失だけで約7230万円を支払っている計算になるわけだ。

アブセンティーズム損失と合算すると失われる労働生産性は次のようになる。

失われる労働生産性=アブセンティーズム損失+プレゼンティーズム損失=353万円+7230万円=約7600万円

100人規模の企業では、この金額が毎年自動的に失われるわけだ。かなり恐ろしい感じもするが、これは事実だ。

例えば、末期がんでも本人が気づいていないようなものだ。「問題がない」と「問題に気付いていない」は全く違う。あなたの会社の場合はどうだろうか?

3-3.職場のポジティブ面と労働生産性

おさらいになるが、この研究では、職場のポジティブ面として次の2つのデータをストレスチェックの結果から得ている。

  • ワークエンゲージメント
  • 職場の一体感

これらが労働生産性とどう関係しているのか、その結果が次の通りだ。

3-3-1.アブセンティーズム

アブセンティーズムとの関係は次の通り。ご覧のように、ワークエンゲージメントとも職場の一体感とも関係がないことが示された。

ポジティブ面関連度
ワークエンゲージメント-.07
職場の一体感-.07

これはつまり、いかに本人が仕事へのやる気があっても、いかに職場が支えあえるような環境であっても、本人が病気で休むこととはあんまり関係がないことを示している。

3-3-2.プレゼンティーズム

一方で、プレゼンティーズムとの関係は次のようになった。ご覧のように、ワークエンゲージメントとも職場の一体感ともに、プレゼンティーズムとほぼ確実に関係があることが示されている。

ポジティブ面関連度
ワークエンゲージメント-.31**
職場の一体感-.21*

これはつまり、本人のやる気や、職場の雰囲気が、本人の労働生産性に関係していることを示している。

もっとかみ砕いて言うと、「本人のやる気があれば労働生産性も上がるし、職場の一体感があれば労働生産性も上がりますよ」ということなのだ。

まあ言われてみれば当たり前のような気もするが、統計的に確実性を裏付けられた意味は大きいだろう。

4.労働生産性を高めるために何が効果的か?

労働生産性を理解するうえで、アブセンティーズムとプレゼンティーズムという2つの概念を使ってきた。

このうち、プレゼンティーズム損失が圧倒的に大きいことが分かった。比率で言うと、1:20くらいの感じだ。つまり、労働生産性を考える上で、プレゼンティーズム対策が不可欠ということになる。

じゃあ、プレゼンティーズムを引き起こす原因は何だったか?おさらいすると、次のようなことだった。

  • 自分は健康じゃないという思いがある
  • 仕事に満足していない
  • ストレスを感じている
  • きちんと寝れていない
  • 漠然とした体調不良がある

個人的に、これらには、次の3つでかなり対処できるのではと思う。

  • 睡眠
  • 運動
  • ストレス対策(リラックス法、マインドフルネスなど)

というのも、これらをやれば、主観的な健康感や漠然とした体調不良はある程度解決できると思われるからだ。おそらく仕事にもハリが出るだろう。

その他、仕事に対する有意義感を全社員に持たせてあげられたとしたら最高だろう。

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